【ストーリー】
国民的アニメーションスタジオ、スタジオジブリは数々の名作を世に送り出し、世界中のファンをはじめ、映画人やアニメーターに多大な影響を与え続けてきた。2013年、ジブリの中核を担う宮崎駿監督、高畑勲監督、鈴木敏夫プロデューサーの制作現場に密着。数十年にわたり苦楽を共にしてきた三人の人間関係や、話題作を次々に生み出す現場の秘密に迫る。
【鑑賞前】
後述しますが今月はいよいよ、ですね。その前にこの映画を観ておきたいところ。
監督は砂田麻美という女性監督で、この監督結構すごいんですよ。
大学通いながら映像制作のおもしろさに目覚め卒業後はフリーで監督助手をこなしたんです。
河瀬直美、岩井俊二、是枝裕和と腕のたしかな監督の元で学んだあと2009年にがん告知を受けた父主演でドキュメンタリー映画『エンディングノート』を制作してね、是枝裕和をプロデューサーに2011年公開したんです。これが異例のヒット。受賞したのは下記のとおり。
第33回ヨコハマ映画祭新人監督賞
第35回山路ふみ子映画賞文化賞
第52回日本映画監督協会新人賞
第36回報知映画賞新人賞
第26回高崎映画祭若手監督グランプリ・芸術選奨新人賞映画部門
そして今作という流れです。
ね?前菜なんかじゃないんですよこれ。
【感想】
今回は公開初日に新宿バルト9で、22:10の回シアター5で鑑賞しました。
24:20終了では終電に間に合わないのか、かなり空いてる。
客の入りは40名ほどでカップルが大半でした。
バルト9のホールはすっかりスタジオジブリ色。
映画にはまったく関係ないんですけど、鑑賞前に用を足しておこうとトイレへ。
そこにあったのがこれですよ。
魔法少女まどか☆マギカを便意に耐えながら鑑賞するという東京で密かに流行りつつあるプレイがあると巷で噂になっておりますが、これはデマではなかったのですね。感動でございます。僕もどこかで挑戦してみたいと思った次第。
本題の映画ですが、これがすごく良かった。
監督が女性だったからこそ宮崎駿は隙を見せたというか懐に踏み込むことを許したのだろうし、監督の砂田麻美もそれに甘えず巧みに距離感を調整し、踏み込むべきタイミングではしっかり一歩踏み込み、引くべきところは堪えて引いているのが見てとれる映画でした。
劇場内は終始笑い声が絶えないたのしい映画だったのですが、一番大きな笑いを誘ったのは庵野秀明と宮崎駿のふたりがプラモデルのヒコーキを手に無邪気に遊ぶシーンでした。宮崎駿がヒコーキを持った手を高くあげて「ぶ〜〜ん」つってヒコーキ飛ばすんですよ。はじめておもちゃを買ってもらった子どものような笑顔で。その高く飛ぶヒコーキを庵野秀明がこれまたはじめて空飛ぶおもちゃを見たような眼差しで見上げてて、ふたりの姿はまるで4歳児のようでね、4つの瞳がキラキラと輝くその光景は幼稚園児そのものでした。
他にも庵野秀明がらみで貴重な映像もたくさんありました。例えば「風立ちぬ」の主人公「堀越二郎」役の声を庵野秀明で録ってみようと話がまとまった後、ジブリプロデューサーの鈴木敏夫が車内で庵野秀明に電話をかけるのですが、その瞬間にもカメラは立ち会ってるんですね。庵野秀明の反応に注目です。
また冒頭で宮崎駿が「僕は20世紀の人間なんだよ。21世紀のことなんて知らないよ」とカメラの前で吐き捨てるのですが、堀越二郎の声が庵野に決まった瞬間、カメラの前でだぶるピースをしながら「21世紀だねえ」と満面の笑みをこぼすんですよ。ひねくれ者の宮崎駿が21世紀を受け入れることが出来たのは、庵野秀明のおかげなのかもしれませんね。
しかし山場はレコーディングの全行程を終えた日でしょう。
「風立ちぬ」では最後の台詞が「あなたきて」から「あなた生きて」に変更されました。
堀越二郎は最後亡くなっている設定であったはずが、さいごのさいご、生かされる設定に180度変わったのです。この変更を誰より望んだのは庵野なのかもしれません。
たった一人誰に言うでもなく密かに引退を決めていた宮崎駿から庵野秀明に「お前に任せた。これからはお前が牽引していけ」とバトンを渡した、そんな風に僕には映りました。それを庵野も感じ取ったかのように、全行程を終えて鈴木敏夫に車で送られての帰り道、ぽつりとつぶやくんですよ。「あとは僕が頑張らなきゃいけないですね」と。庵野秀明が「あなた生きて」の台詞を奥歯で噛み締めながら飲み込むんですよ。
映像を見る限り、宮崎駿と仕事をしていく中で庵野秀明の心境の変化はありありと映し出されていました。これを受けて次回のエヴァンゲリオンで庵野はなにを見せてくれるのか楽しみで仕方ありません。
宮崎駿と庵野秀明のことばかり取り上げてしまいましたが、ポッドキャストで鈴木敏夫のジブリ汗まみれを毎週聞いているリスナーの方でしたら既にご存知の事ばかりが全編にわたって続きます。それでもこの映画に価値があると言えるのは、宮崎駿という孤高の天才が、心に矛盾を抱えたまま、希望も絶望もごちゃまぜにしながら夢と狂気の狭間で作品を作っていく過程を、適切な距離でカメラを回し続けて記録したからでしょう。貴重な資料としても価値の高い、素晴らしい映画でした。
この映画に数量限定で来週公開の高畑勲最新作「かぐや姫の物語」のプロローグがついてきました。早速帰宅後に鑑賞しました。約6分の予告編ですがこの完成度はスゴいです。あまりの素晴らしさに嫁を叩き起こして見せてやると、おいおい泣き出しました。2013年公開作品No1、本命は「ゼロ・グラビティ」だったのですが「かぐや姫の物語」になりそうです。