映画なんか大っきらい

週1本を目標に新作映画を観てレビューしていきます。 ★が10個で満点。満点は1年に1つ出るか出ないか。 出る日を楽しみに覗いてくれると喜びます。 60年代ヨーロッパ映画,70年代アメリカ映画,ホラー/スプラッター映画などを好みます。映画にまつわるゴシップNEWSや旧作映画も随時更新

★★★★★★★☆☆☆

「夢と狂気の王国」★7

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【ストーリー】
国民的アニメーションスタジオ、スタジオジブリは数々の名作を世に送り出し、世界中のファンをはじめ、映画人やアニメーターに多大な影響を与え続けてきた。2013年、ジブリの中核を担う宮崎駿監督、高畑勲監督、鈴木敏夫プロデューサーの制作現場に密着。数十年にわたり苦楽を共にしてきた三人の人間関係や、話題作を次々に生み出す現場の秘密に迫る。
【鑑賞前】
後述しますが今月はいよいよ、ですね。その前にこの映画を観ておきたいところ。
監督は砂田麻美という女性監督で、この監督結構すごいんですよ。
大学通いながら映像制作のおもしろさに目覚め卒業後はフリーで監督助手をこなしたんです。
河瀬直美、岩井俊二、是枝裕和と腕のたしかな監督の元で学んだあと2009年にがん告知を受けた父主演でドキュメンタリー映画『エンディングノート』を制作してね、是枝裕和をプロデューサーに2011年公開したんです。これが異例のヒット。受賞したのは下記のとおり。
第33回ヨコハマ映画祭新人監督賞
第35回山路ふみ子映画賞文化賞
第52回日本映画監督協会新人賞
第36回報知映画賞新人賞
第26回高崎映画祭若手監督グランプリ・芸術選奨新人賞映画部門

そして今作という流れです。

ね?前菜なんかじゃないんですよこれ。
【感想】
今回は公開初日に新宿バルト9で、22:10の回シアター5で鑑賞しました。
24:20終了では終電に間に合わないのか、かなり空いてる。
客の入りは40名ほどでカップルが大半でした。

バルト9のホールはすっかりスタジオジブリ色。
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映画にはまったく関係ないんですけど、鑑賞前に用を足しておこうとトイレへ。
そこにあったのがこれですよ。

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魔法少女まどか☆マギカを便意に耐えながら鑑賞するという東京で密かに流行りつつあるプレイがあると巷で噂になっておりますが、これはデマではなかったのですね。感動でございます。僕もどこかで挑戦してみたいと思った次第。


本題の映画ですが、これがすごく良かった。
監督が女性だったからこそ宮崎駿は隙を見せたというか懐に踏み込むことを許したのだろうし、監督の砂田麻美もそれに甘えず巧みに距離感を調整し、踏み込むべきタイミングではしっかり一歩踏み込み、引くべきところは堪えて引いているのが見てとれる映画でした。

劇場内は終始笑い声が絶えないたのしい映画だったのですが、一番大きな笑いを誘ったのは庵野秀明と宮崎駿のふたりがプラモデルのヒコーキを手に無邪気に遊ぶシーンでした。宮崎駿がヒコーキを持った手を高くあげて「ぶ〜〜ん」つってヒコーキ飛ばすんですよ。はじめておもちゃを買ってもらった子どものような笑顔で。その高く飛ぶヒコーキを庵野秀明がこれまたはじめて空飛ぶおもちゃを見たような眼差しで見上げてて、ふたりの姿はまるで4歳児のようでね、4つの瞳がキラキラと輝くその光景は幼稚園児そのものでした。

他にも庵野秀明がらみで貴重な映像もたくさんありました。例えば「風立ちぬ」の主人公「堀越二郎」役の声を庵野秀明で録ってみようと話がまとまった後、ジブリプロデューサーの鈴木敏夫が車内で庵野秀明に電話をかけるのですが、その瞬間にもカメラは立ち会ってるんですね。庵野秀明の反応に注目です。

また冒頭で宮崎駿が「僕は20世紀の人間なんだよ。21世紀のことなんて知らないよ」とカメラの前で吐き捨てるのですが、堀越二郎の声が庵野に決まった瞬間、カメラの前でだぶるピースをしながら「21世紀だねえ」と満面の笑みをこぼすんですよ。ひねくれ者の宮崎駿が21世紀を受け入れることが出来たのは、庵野秀明のおかげなのかもしれませんね。

しかし山場はレコーディングの全行程を終えた日でしょう。
「風立ちぬ」では最後の台詞が「あなたきて」から「あなた生きて」に変更されました。
堀越二郎は最後亡くなっている設定であったはずが、さいごのさいご、生かされる設定に180度変わったのです。この変更を誰より望んだのは庵野なのかもしれません。
たった一人誰に言うでもなく密かに引退を決めていた宮崎駿から庵野秀明に「お前に任せた。これからはお前が牽引していけ」とバトンを渡した、そんな風に僕には映りました。それを庵野も感じ取ったかのように、全行程を終えて鈴木敏夫に車で送られての帰り道、ぽつりとつぶやくんですよ。「あとは僕が頑張らなきゃいけないですね」と。庵野秀明が「あなた生きて」の台詞を奥歯で噛み締めながら飲み込むんですよ。

映像を見る限り、宮崎駿と仕事をしていく中で庵野秀明の心境の変化はありありと映し出されていました。これを受けて次回のエヴァンゲリオンで庵野はなにを見せてくれるのか楽しみで仕方ありません。

宮崎駿と庵野秀明のことばかり取り上げてしまいましたが、ポッドキャストで鈴木敏夫のジブリ汗まみれを毎週聞いているリスナーの方でしたら既にご存知の事ばかりが全編にわたって続きます。それでもこの映画に価値があると言えるのは、宮崎駿という孤高の天才が、心に矛盾を抱えたまま、希望も絶望もごちゃまぜにしながら夢と狂気の狭間で作品を作っていく過程を、適切な距離でカメラを回し続けて記録したからでしょう。貴重な資料としても価値の高い、素晴らしい映画でした。

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この映画に数量限定で来週公開の高畑勲最新作「かぐや姫の物語」のプロローグがついてきました。早速帰宅後に鑑賞しました。約6分の予告編ですがこの完成度はスゴいです。あまりの素晴らしさに嫁を叩き起こして見せてやると、おいおい泣き出しました。2013年公開作品No1、本命は「ゼロ・グラビティ」だったのですが「かぐや姫の物語」になりそうです。

「クロニクル」★7

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9.27(金)から2週間限定で公開中の「クロニクル」が全員1000円で観られるぞ。
シネマサンシャイン池袋20:00〜の回レイトショーにて鑑賞。

映画評論家の町山智浩さんが2012年度映画ベスト10において第3位にあげていて(タランティーノの「ジャンゴ」が8位という納得のいかなさも相まって)観てみたいなあと思っていたところに限定公開。制作費が僅か1200万ドルにも関わらず大ヒットというのは「ブレアウィッチ・プロジェクト」を思い出させますが、「ブレアウィッチ・プロジェクト」よりも断然面白い内容でした。
現在絶賛公開中の「地獄でなぜ悪い」もオススメですが、2週間しか公開されていないというわけで今はこちらを推します。

この映画は実写版「AKIRA」です。超能力モノといえばスーパーヒーローばかりですが、クロニクルでは普通の高校生があるコトがきっかけで超能力を得るというもの。あるコトというのは、高校生3人組が地面にぽっかり開いた奇妙な穴を見つけるんですよ。好奇心旺盛な高校生ですから穴のなかを探検してみるんですね。そこにあったものは怪しく光りを放つ奇妙な物体。それがなにかは最後まで触れられませんが、きっと地球外からの物体です。その物体に触れたことで超能力を得てしまうという流れです。
チープですね。けれども面白いのは妙なリアリティを感じるんですよ。何がリアリティを生んでるかというとこの映画、家庭用ビデオカメラやiPhoneで撮影していて、高校生が日常をクロニクル(記録)するための映像ですからブレも結構ひどい。それがすごくリアルなんです。「ブレアウィッチ・プロジェクト」で映画酔いをおこしてしまった人には少しきつい映像かもしれません。進化し続けるうつくしい映像に慣れてしまったいまこうして突きつけられるとそんな画像の悪さ、構図の悪さが逆に作用してリアルと感じるんですよ。

さらにアメリカの高校生活をありのままクロニクルしている感じもリアル。といってもアメリカの高校ってどんな感じかは実際アメリカ行ったことがないのでわからないんですけど、観ていて「ああアメリカの高校生活ってこんな感じなんだろうなあ」とほんとうに覗いている感覚があります。そうしてリアルを観客は十分に植え付けられてから突如その映像に超能力が映し出されるのでふいをつかれるんですよね。よく見ると(よく見なくても)加工は少し粗い気もするんだけど元の画像が粗いってのはこういったトンデモ映像にとっては正義だと実感しました。

物体を動かせる能力を身につけた場合、みなさんは何をまずはしたいですか?

これは男の子は一度は夢見ることで、やっぱりアメリカの高校生たちもやっちゃいます。そうですね。スカートめくりです。
この子たちが好感もてるのはスカートめくりの後はお店に行ってぬいぐるみを動かして幼女を驚かせるとかちょっとしたいたずらばかりして楽しんでいるところ。普通は「女の子のYシャツのボタン全部ボンッて飛ばして乳拝もうず!」とエスカレートしてしまいますよね。でも残念なことにスカートめくり一回だけです。強いて言えばそこだけは減点対象です。ただ高校生の頃を思い返してみると頭のなかはエロ半分かっこつけ半分だったわけでして、スカートめくりに能力使うなんてかっこ悪いぜ!という気持ちは分からなくもない。ということは、おっさん目線での減点なんでしょうね。生きてて恥ずかしいですね。

さて、余計なこと書いてしまいましたがこの映画の面白さはラスト10分に全て詰め込まれていました。監督は台本と一緒に「AKIRA」を配ったそうです。1200万ドルの内訳はおそらく80分に10ドル、ラスト10分に1199万9990ドルをつぎ込んでいます。10/11(金)までしか観ることが出来ないレア映画ですので是非ラスト10分の衝撃を自分の目で確かめに行ってきてください!


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